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 プレジデント7/16号(P146〜151)
 プレジデント記事

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P146 P147 P148 P149 P150 P151

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PRESIDENT 16,JULY p146〜p149
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既存店の平均日商が年々下降し、圧縮される利益。FC経営者は今・・・・・・

「街のコンビニ」の悲鳴が聞こえる

生活苦を訴えるコンビニのフランチャイズ店が増えてきた。
本部は今、金融・ITの拠点化戦略で集客力アップを図るが、
加盟店への支援コストがかさむため、不採算店の整理を進めている。だが、
赤字店のオーナーは、閉店すれば負債を清算しなければならず、
やめられない。どうしようもない不安を胸に今日も店に立つ。

ジャーナリスト 石橋文子(文)/大村克巳(撮影)

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◇本部から届いた1600万円の請求書


「毎日休まず働いて、結局残ったのは多額の借金と疲労だけ。
この9年間はいったいなんだったのかと思いますよ」

 A氏が脱サラをしてサンクスN店のオーナーになったのは1991年11月だ。
都内にあるN店はコンビニエンスストアで通常Cタイプと呼ぶ店舗。
加盟店オーナーが自前で土地・建物を用意するAタイプに対して、
Cタイプは本部が物件を手当てする。したがってA氏の開店資金は350万円
で済んでいる。加盟金300万円と研修費などだ。

 A氏は当初、別の店のオーナーになるはずだった。同店は初年度55万円、
3年目には71万円の日販(1日の売上高)が見込まれる店という説明を受けていた。
ところが開店間際になって、急遽店舗を変更させられた。その店が建築法違反で
行政処分を受けていたからだ。N店の向かいにはローソンの繁盛店があり、
A氏は不安を覚えた。しかし「前の店よりもっと繁盛する店」という本部の
言葉を信じて承諾したという。

 N店の日販は初年度50万円。その売り上げを少しでも伸ばそうと、A氏は
1日12時間、年中無休で働いた。当初5年間で休みを取ったのはわずか10日間。
奥さんも毎日10時間は店に出た。しかし、日販が60万円を越えたのは8ヶ月ほど。
後は50万円台項半を維持するのがやっとであった。

 その日販が99年、ガクンと落ち込んだ。
すぐ側にセブン−イレブンが、その直後には生鮮も扱う100円スーパーが開店
したのである。どう手を尽くしても、売り上げは上がらない。
むろん、店舗を巡回して経営指導をするSV(スーパーバイザー)に相談したが、
「競合対策はありません」という答え。
せめて棚割りの変更を考えて欲しいと頼んだが、「忙しいのでできない」と
一蹴りされた。

「お互い儲からないのでもうやめましょう。違約金は取らないので」
 本部にこう持ちかけられたのは2000年3月のことである。たしかに赤字は増えるばかり
だし、だいいち体がもうもたない。A氏は解約を承諾し、9月30日で閉店する旨の文書を
送付した。ところが、その後に届いた1600万円の請求書を見て驚いた。
本部への負債に加え、違約金320万円を支払えというものだったのである。

 話が違う。A氏は本部に掛け合った。しかし、すでに担当者が代わっており、
「文句があるなら裁判所で会いましょう」という回答。その対応でA氏は堪忍袋の緒が
切れた。

 「夫婦で働いて私の年収は最高610万円。9年間で2573万円です。これに対して本部
に支払ったロイヤリティ−は合計2億7450万円に上っている。一桁違うんですよ。
これだけ支払って売り上げが落ちたとき、いったい何をしてくれたのか。
しかも違約金なしの話まで反故にするとは、こんな理不尽なことが社会的に
許されるのでしょうか」

  他の加盟店のためにも泣き寝入りはしたくない。そう決意したA氏は、
昨年7月に「サンクス被害者の会」を結成。同じ状況のFC(フランチャイズ)オーナー
とともに目下、集団訴訟の準備を進めているという。

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◇年商1億8000万円でもオーナーは生活苦

 ファミリーマートが2001年度に不採算店を500店閉鎖する。
日本経済新聞が今年2月26日に一面トップで報じたニュースは世間の大きな関心を
集めた。大量出店で成長を続けるコンビニ業界にも
「ついにリストラの嵐が吹き荒れるのか」という衝撃を与えたからだ。
だが、業者関係者にとっては「こんな話がなぜ一面トップの記事になるのか」と
逆の意味で驚きであったという。というのも不採算店増加に伴う大量閉店の
動きはすでに去年から加速していたからだ。

 コンビニの収益に翳りが見え始めたのは98年。過激な出店競争による競合激化。
長時間営業のスーパー、弁当チェーンなど異業態との競争激化。さらには
デフレの影響が重なって売り上げ不振店舗が急激に増加し始めたのである。
実際、大手5社(セブン−イレブン、ローソン、ファミリーマート、サークルケイ、
サンクス)の2000年度決算を見ても、既存店売り上げは軒並み前年を割っている。

 こうした中で、ローソンは昨年、過去最高の420店を閉鎖。またファミリーマート
も223店を閉鎖しており、前期の閉店数は上場8社だけで1133店を数える。
大量出店と不採算店の大量閉鎖、つまり拡大とリストラの同時進行はすでに
業界全体の動きとなっているのだ。

 ではその不採算店がどれだけあるかだが、これについて「セブン−イレブンと
他の大手を一律に論じることはできない」と語るのは、メリルリンチ証券の
鈴木孝之シニアアナリストだ。
「平均日販の低迷に悩んでいるのはもちろんセブンも同じです。ただ同社は
立地選定の精度が非常に高いし、総合力でやはり一頭地を抜いている。また
問題店の基準が日販50万円と高く、それを下回ると店舗の移転などを早急に策を
講じます。そのため、いわゆる赤字店舗の比率は少ない。これに対して他の
大手は90年代、セブンに追いつけと粗製濫造ともいえる出店を続け、そのツケが
出まわっているのは事実です」

 2000年度のセブン−イレブンの平均日販は、67万5000円。サンクス51万6000円、
ローソン48万6000円、ファミリーマート47万8000円などと大きな開きがあり、
その差はたしかに「症状」の違いを物語る。各社の状況に差はあるが、過剰出店の
ツケの整理は「今後3年は続く」というのが大方の見方だ。
「大手が不採算店の整理に乗り出したのは、赤字に苦しむ加盟店にとっても
望ましいことです。都市部で日販30万円などという店のオーナーは逆立ちしても
食べていけませんから」

 こう語るのは、98年に加盟店の総合組織として結成されたコンビニ・FC加盟店
全国協議会(FC協議会)の植田忠義事務局長である。FCコンビニの店舗数は
現在4万店。その7割を上場8社が占めている。その各社がリストラのスピードを
上げたことで、たしかに「にっちもさっちも行かない店」の整理は急速に進むはずである。

 だが問題は、大量出店と売り上げ低迷に伴って増加したのは、本部も加盟店も
利益の出ない不採算店だけではないことだ。本部にとっては不採算店の中にも生活苦に
喘ぐ加盟店がもはや「一部」とは言えないほど増えており、そのオーナーたちの不安と
疲労がコンビニの将来に影を落としかねない状況を迎えていることである。
「以前はけっこう羽振りのいい話も聞きましたが、最近は競合店ができて、売り上げが
2割落ちたとか、生活できなくて銀行に借金したとか、とにかく暗い話ばかりです。」

 こう語るのは都内で13年、コンビニを営むB氏である。B氏によると、年収800万円を
超える「リッチ」なオーナーは全体の15%。夫婦で働いて年収が500万円を切る例はザラ
という。

 実際冒頭に述べたA氏は98年までサンクスの平均を上回る50万円台の日販を挙げていた。
だが、その間の平均年収でさえ、夫婦二人で310万円。なぜそんなに低いのか。
首を傾げたくなる数字だが、加盟店の利益構造を詳細に見ていくと、A氏のケースが
必ずしも例外とは言い切れない実態が浮かんでくる。

 2000年版MCR統計(コンビニ産業統計)によると、日販60万円以上の店は全体の
25%。ボリュームゾーンは40万〜60万円だ。そこで日販50万円、Cタイプの店舗の
収入を加盟店の話を総合して試算してみよう。

 FCチェーンのロイヤリティ−は通常、店の粗利益にかけられる。売上高から仕入高を
引いたものだ。厳密には普通の粗利益と若干異なるが、ともかく月間の粗利益からロイヤ
リティーを支払い、その残りから経費を引いたものがオーナーの所得になるわけだ。

 そのロイヤリティ−はチェーンによって異なるが、Cタイプで日販50万円
(月販1500万円)の場合、大体50%。粗利益率は30%が平均値。したがってこの数字で
月間の粗利益高を出すと、450万円。そこからロイヤリティーを引いた225万円が
オーナーの総収入になる。

 この225万円のうち経費がいくらかかるかだが、首都圏の店舗で150万円以下に押さえる
のはまず不可能。200万円程度でも相当な苦労が伴うという。
その内訳は水道光熱費や清掃費などの固定費がざっと50万円。弁当の廃棄ロス、万引など
の棚卸しロスが約45万円。

 問題は残り130万円を人件費がいくら食うかだが、夫婦が交代で24時間店に出たとしても
最低一人のアルバイトは必要だ。時給800円として1ヶ月で58万円。これだとオーナーは
月収72万円を手に出来る。だが、夫婦が365日働き続けることはできないし、ピーク時に
もっと人が必要なこともある。そこでアルバイトを1日2人とすると、116万円。
時給1000円の都心だと144万円になり、実際、人件費が100万円を超える店は珍しくない
という。

 仮に人件費を100万円としても、経費の総額は195万円となり、オーナーの所得は30万円。
年間2700万円のロイヤリティーを支払ったオーナーの年収がわずか360万円ということに
なってしまうのだ。

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◇脱サラして夫婦で開店 1年365日休みなし

 自前で土地建物を用意するAタイプは、ロイヤリティーの率が35%と低いので
事情は大きく異なる。だが、首都圏では店舗の建築費は3500万円を超えている。
その建築費を銀行から借りれば、月々の返済がのしかかる。いずれにせよ、日販50万円前後
でロイヤリティーの高いCタイプのオーナーが、500万円以上の年収を確保するには
極限まで人件費を切り詰めるほかはない。そのためオーナーは「原則365日の深夜労働を
強いられる」と語るのは、やはり都内でコンビニを営むC氏である。

 「深夜は防犯上、二人以上の体制が義務付けられている。そのアルバイトを一人押さえる
にはオーナーが毎晩店に出るしかないわけです。夜7時から朝まで店に出て、それだけ
じゃありません、発注作業やバイトの管理もあるし。家に帰るとくたくたですが、外が
明るいとなかなか寝付かれない。結局4〜5時間の睡眠でまた店に行くという生活の
繰り返しです」

 しかも、こうして必死で働いて売り上げを伸ばしても、その分、所得が増えるわけでは
ない。Cタイプのロイヤリティ−は通常、売り上げが増えると率が累進的に高くなるから
だ。「わずかな資金で開店できる」恩恵と引き換えに、構造的に糊口をしのぐ仕組みに
なっているわけである。そして、この主に脱サラ組のCタイプのオーナーが90年代以降
大幅に増えた事が、生活に苦しむコンビニ・オーナー増加の要因の一つになっていると
言っていいい。

 「それでも以前は開店5年目ぐらいまで売り上げが年々伸びたので、夢が持てたんです。
でも今は、開店3年目に競合店ができて日販が激減したとか、まさにパイの食い合いで、
もともとギリギリの生活が破綻してしまうケースが増えているわけです」(B氏)

 加盟店にとっての日販の1割減は「地獄」を意味するという。
コンビニは経費削減の余地が少ないため、売り上げの低下はオーナーの所得を直撃する
からだ。事実、99年に売り上げが15%低下したA氏の年収は半分に減っている。

 売り上げ不振店についてはオーナーの総収入に対して最低保証制度が設けられている。
ロイヤリティーを引いた後の総収入が一定額に達しない場合、差額を本部が補填するという
もので、その最低保証額は月額150万円〜180万円。さらに。保証を受けて総収入が150万円に
なったとしても経費を賄えない場合は本部が立て替える。

 FCコンビニでは加盟店の会計を本部が処理しており、経費の不足分を自動的に融資する
のである。
「ですから、加盟店は当面経費の支払いに困ることはないが、気がつくと本部への負債への
負債が500万円、1000万円とたまっている。また本部に負債はなくても、生活費が足りなくて
金融機関に借金をするオーナーもたくさんいます。当面の生活費を工面するため、悪いと
知りつつ現金での購入が認められている消耗品費のなかから3万〜4万円抜くこともある。
買ってもいないものを買ったことにして水増し報告するわけです」(C氏)

 こうした生活につかれたのか、FC協議会には今年に入って解約の相談が急増している
という。もうやめたいが、どうすれば違約金を払わずに済むかという相談だ。
しかし、違約金なしの合意解約ができても、本部と銀行合わせて3000万円の借金が残ったと
いう深刻な例もあるという。

 FCチェーンの本部と加盟店の信頼関係は言うまでもなく「利益」をベースに成り立って
いる。同じセブン−イレブン、ローソンの加盟店でも、繁盛店ろ不振店では本部に対する
評価が180度違う。
「たしかにロイヤリティーは高いが、自分一人で仕入れから何からすべてやってこれだけの
収入を確保することができるかどうか」繁盛店はこう口を揃え、不振店は
「これだけ高いロイヤリティーを払っても本部は何もしてくれない」と不満を募らせる。

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